希硫酸、塩酸、酢酸、りん酸、食酢など、様々な酸が使えるようです。入手、保管のしやすさ、鉄と反応したときに生成される物質や廃液処理のことを考えてクエン酸 (Citric Acid, C
6H
8O
7) で実験してみました。
この実験を行った段階では手元にあった 1Lくらいのガラス瓶を使用したのですが、灯油につける時など、やすりを入れると蓋ができないため、匂い等の問題がでるので、やすりを入れた状態でも蓋ができる容器を探していました。
Le PARFAIT (ルパルフェ)というフランス製のガラス保存瓶の 2L 用が、ハンドルを外してやすりを斜めにすると、それを入れた状態でも蓋ができることがわかり、現在はこれを利用しています。もちろん、クエン酸処理、重曹処理など、
ガスが発生する場合は蓋はしてはいけません。
Le Parfait (ル パルフェ) 2.0L 瓶にやすりを入れた状態
手元には、古い Duralex (デュラレックス) の 1.5L 保存瓶があったのですが、これは少し高さが足りず、全長が 240mm を超える長いやすり (Vallorbe のダブルベベルやスリーコーナーなど) を入れると蓋をすることはできませんでした。
デュラレックス 1.5L 瓶に全長 240mm超の長いやすりを入れた状態
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やすりをクエン酸水溶液に浸漬する
1L のお湯に大さじ3杯のクエン酸 (弱酸性) を溶かし、2〜3日、 48〜72時間くらい漬けると、水素が発生し溶液は真っ黒に変化します。
水素の発生は爆発の恐れがあり危険です。換気の良い場所か屋外の火の気、電気のスイッチの ON/OFF などのスパークのおそれのない安全な環境で行ってください。
水素は軽いので上昇します。クエン酸の量は適当に決めた量ですので、これでないといけないということはありません。ただし、量が不足すると時間がかかったり充分に反応してくれない可能性があります。
車の弱ったバッテリーを充電するような場合にも水素が発生し、ブースターケーブルの断接時のスパークで爆発する事故が時々起こります。それを避けるため、最後に接続するマイナスアースはエンジンブロックなど、アース回路でかつ水素発生源であるバッテリーから離れた場所に接続するように指示されています。充分注意してください。
クエン酸、重曹などの水溶液を作る場合、水(お湯)に少しずつクエン酸あるいは重曹などを加えて溶かすようにしてください。今回の場合、少し冷めたお湯を1/3量瓶に入れ、そこにクエン酸あるいは重曹などを大さじで計量して投入、攪拌して溶解させ、最後にやかんから熱湯を規定量まで加えました。
逆に、規定量の薬品に水(お湯)を加えると、全量が一気に爆発的に反応してしまい、危険なことがあります。ご注意ください。
やすりをクエン酸水溶液(お湯)に浸漬直後の様子。水素の気泡が発生しているので注意が必要。
浸漬から24時間程度経過後の様子。水素の発生はだいぶは落ち着いてきている。
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やすりを重曹水溶液で中和する
クエン酸水溶液に浸漬して 48時間経過後、お湯 1L に重曹(ベーキングパウダー、炭酸水素ナトリウム, NaHCO3) 大さじ 2杯 を溶かした水溶液 (弱アルカリ性) につけて中和しました。YouTube動画などでは、完全に反応が止まるまで酸に3日間程度つけ置きしているケースもあるようです。浸漬時間は酸の濃度と水溶液の温度 (酸の濃度が濃く、温度が高い方が反応が早い) で変わってきます。様子をみて加減してみてください。重曹の量も適当に決めたもので、この限りではありません。本来なら作ったクエン酸水溶液を充分中和できる量を計算した方が良いのかもしれません。ただ、あまり多いとお湯の温度によってはうまく溶けてくれない可能性があります。
浸漬48時間経過後、クエン酸水溶液は真っ黒に変色した。重曹で中和してみる。
先の 48時間で中和したのは、2024年9月21日、まだ暑かった頃、夕方に浸漬して、23日夕方に中和したのですが、後日、2024年10月18日、寒くなってストーブをつけだした頃に再度おなじように作業してみたところ、48hrsではまだ水溶液に透明度がある状態(9月の24時間経過時程度)だったので、さらにもう半日おいたところ真っ黒な不透明状態まで進みました。違いは気温ではないかと思うので、どうも気温が下がると反応が進行するのに時間がかかるようです。
2004年に 大日本印刷(株) 電子デバイス研究所 八木 裕氏 の書かれた「化学エッチングの基礎」
というドキュメントによると、
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温度、圧力が増加するほど高いエッチング速度が得られる。
"
"
濃度の増加とともにエッチング速度は向上するが、ある程度でエッチング速度は飽和し低下する。これはエッチング液の粘度の増加により物質移動がスムーズに行われないためと考えられる。
"
という記述が見つかります。より短時間で効果を得るためには、高めの温度で濃い水溶液を使うと良いことがわかります。作業場の環境や、廃液処理の問題との兼ね合いから、ほどほどのところを狙うことになるでしょう。
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食器洗剤などで洗浄する
しばらくおいて、洗面器などにお湯を用意し、そこに食器用洗剤を少量加えてたわしでこすり洗いしました。このときグレーのもこもこが出てきます。よくすすぎます。
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水気を切って防錆油を塗布する
ペーパータオルなどで水気を切って、エアコンプレッサーのダスターを使ってよく水を飛ばします。水気が切れたら防錆のために潤滑スプレーなどの油分を吹きかけて防錆処理し、ペーパータオルなどに包んでおくと良いでしょう。
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完成
下手すると新品よりも切れるかもしれないやすりが出来上がります ;-)。